かれてご(背負い籠) 2  



 以前にも書きましたが、ここ水俣式の「かれてご」は、桶の輪をはめ込んで、そこに紐(ひも)を通すという形を取っています。実は、私が今している桶の輪の巻き方・はめ方は、師匠からではなく、他の水俣最長老の職人さんから学んだものです。(今も現役で、山間部の温泉湯治場で籠を編まれています。)


 私が弟子入り時代に師匠から習ったのは、二本組で3周する輪の作り方。その方が巻き方も簡単で、またはめ方も手間がかからないのです。しかし、竹が枯れてくれば緩んでくることもあり、そのため輪をはめた後、針金で籠に括りつけることが必要でした。一方、最長老の職人さんは、一本の竹で5周した輪をはめ込むやり方を取られています。(その昔、桶屋さんに習いに行かれたとか。) 5周もすれば竹が枯れても緩むことはなく、また胴体に少し食い込むギリギリのところで寸法を測っているので、針金を使って固定する必要もありません。しかし、巻き方やはめ方が少し大変で、また竹もかなり長く取る必要があるので、手間はかかります。実用的にはどちらも大差はありませんが、私はできれば針金はあまり使いたくないなぁと、弟子入り中は思っていました。





 弟子入り中、私は最長老の職人の技が知りたくて、休みの日によく、「温泉に入りにきたので、ちょっと立ち寄ってみました」と、さりげない感じで彼の元を訪ねたりしていました。しかしながら、彼はいつも私を温かく受け入れてくれるものの、肝心な技のことについては決して教えてくれません。 「あんたの師匠どんに悪いからね」
と、彼はいつも固く義理を守られていました。

 ところが、そうやって私と色々な世間話をする中(話しながらも手を休めません)、時折さりげなく、彼は作業中にちらっとその技を見せてくれるのです。
それこそ、教えることはできないが、でも盗むのはどうぞ、という感じで。そうして私は、いつも彼の無言の温かさに甘えていました。(むろん私が独立した後は、彼は色々と親切に教えてくれます。今でも私は、彼と話す時はとても緊張して、彼の一挙一動に気が抜けません。現在もう80歳近くになられますが、腕は非常に良い、師匠と同様に私が尊敬する籠職人の一人です。)




 針金を使わない5周した桶の輪をはめるやり方は、彼が20年ほど前にご自分で考えて始められたものだとか。全国の他の背負い籠と比べても、この紐の通し方は籠を傷めず、見た目も美しいと思っています。仕事場の先、写真の左側手前はすぐ道路です。彼はヒゴ取り中、いつも同時に耳をそば立てていて、私と話している途中、サッと急にヒゴを引っ込めたりします。私がなぜだろうと不思議に思っていると、その何秒後かには車が仕事場の前を通過します。彼にとっては会話と手と耳、三つの感覚が同時進行でした。