竹のある暮らし

  

 先日、桶の輪の取り替えを頼まれました。本来カゴ屋の仕事ではないものの、私と同じ集落に暮らすおばあちゃんからの依頼で引き受けました。彼女は大正のお生まれですが、まだまだお元気で、畑仕事などにも精を出されています。

 下写真、左は直径60cmの寿司桶で、右は米びつ用の曲げわっぱです。寿司桶の一番下の輪は「泣き輪」と呼ばれ、はめ込むのに一番苦労するところですが、今回は無事にうまく一回で決まってほっとしています。米びつは、そのおばあちゃんの弟さんが曲げわっぱの職人だったとのことで、その昔、彼が姉のために作られたものだそうです。




 桶の輪を取り替えたあと、今度は隣村のおばあちゃんから、「かれてご(背負かご)」の修理を頼まれました。底の足竹がボロボロになっていたので、全て新しいものと取り替えました。竹は火で炙って直角に曲げています。また、胴体のヒゴも所々に折れていたので、可能な範囲で継ぎ足しました。


    


 縁(ふち)の竹が切れかかっていたところも、一周だけ巻き直しました。「かれてご」自体は少し小さめで、一斗五升入りの大きさです。縁と紐を通している桶の輪は、竹の表皮を磨いているので深い飴色に変化しています。


 



 この「かれてご」、どこかで見かけた形だなぁと思っていたら、私の師匠が数十年以上も前に作ったものでした。今回私が修理の機会をいただいたこと、ご縁を感じて感謝しています。ちなみにこのおばあちゃんは師匠と同じ、昭和7年のお生まれで、まだまだ元気に活躍されています。これからも、師匠のカゴが彼女のもとで役立ち続けてくれることを願います。






 私が引き受ける地元の依頼の多くは、昭和一桁〜大正生まれの方からです。その世代のじいちゃん・ばあちゃん達は、竹カゴを使ってくださるということのみならず、いわゆる昔の生活の知恵など、私は彼らの生きる逞しさに圧倒されるばかりです。個人的には、戦争の時代を経験されてきたことが一つの共通要因としてあるのかと感じています。

 一方、昨年末頃から、私がお世話になっている方たちが体調を崩して入院されたりすることが多くなりました。自分がこの村に移住してもう12年目になります。寂しいですけど、年を重ねていく流れには私含めてみな逆らえないことを痛感します。竹のある暮らしは次第と消えていくのかもしれませんが、今はただ丁寧にカゴ作りをする責任を自分なりに果たしたいと思います。