薩摩の丸ザル




  南九州、特に鹿児島では、網代編みで編まれた平たい籠をよく見かけます。 薩摩の方言で「バラ」と呼ばれ、網代編み六つ目編みを合わせた「二重(ふたえ)バラ」は、県境に接するここ水俣でも目にすることが多いです。 源流では、その文化は沖縄や東南アジアに繋がっていると思います。 底面は別途編まれ、後から輪っかにはめ込んで作ります。 この入れ込むときが大変で、私はいつも汗びっしょりになります。 干しもの用に優れていて、特に網代編みは目が詰まっているので、細かいものを天日で乾かすのに向いています。 



 下写真は、その二重バラと作り方は同じですが、はめ込む底面を「網代編み」ではなく、「ゴザ目編み」にしたものです。 直径18寸、注文で作りました。 編み目に適度な隙間があり、通気性はこちらの方が高いと思います。 一方、ここ水俣で作られるゴザ目編みのザルは、深みを持たせて、作り輪にヒゴを一本一本練りこんでいくやり方です。 (輪に直接噛んでいるので、重たいものを載せても底の外れる心配は少なくなります)  この編み方で浅く作ることもできなくはありませんが、しかし縁の高さはありません。 それに比べて、この薩摩の丸ザルは、平たいけれども縁の高さがあり、横にこぼれにくいという利点があります。 今回は縁の高さ3cmほどで作りましたが、伝統的な薩摩バラは、太い孟宗竹を使って、5cmほど高さがあるものもあります。 


 
 







 下写真は、底面を編み終わり、丸く切ったところです。 ゴザ目で平たい薩摩の丸ザルを作るのははじめてだったので、最初に編み始める中央部、編みヒゴの両端の収め方に、少し自信がありませんでした。 どうしたものか・・と悩んでいたところ、そういえば、私がかつて弟子入りをお願いした鹿児島の職人さんが、よくこれを作られていたことを思い出しました。 過去の写真を色々と見返していたら、彼の仕事場に、ちょうど輪っかにはめ込む前のものが写っていました。 その部分を拡大してみたところ、私はそこで、ようやく答えを知ることができました。(時計の3時と9時の部分、半月状に削った身竹を作り、そこに編みヒゴを折り込みます)







 彼が生きておられたら、私は真っ先に彼の仕事場を訪問したと思います。 が、昔の職人さん、今となっては、ほとんどの方がこの世を去られています。 もはや本や写真を見るしか方法は無いのだと、今回、あらためて思い知りました。 彼らと直接に話ができなくなって、もうだいぶ時が経ってしまったことを感じています。





 

 上写真は、彼の生前に撮らせていただいたものです。 後ろに少し写っている「二重バラ」は、直径1.2mの味噌バラで、今は私の仕事場に飾ってあります。 ところで先日、南九州市立博物館を訪れた折のことです。 昔の民具を紹介している部屋の一角で、彼のバラ製作の映像が、通り過ぎようとする私のすぐ横、偶然にもビデオ画面で流れ始めました。 おそらく数分ほどの短時間でしたが、彼との突然の再会に、私はしばらくその場で釘付けになりました。