「しょうけ」の縁巻き  



 「しょうけ(しょけ)」とは、こちらで言うザルのことです。「縁巻き」は、籠作りの最後の仕上げにあたる大事な作業ですが、「しょうけ」の縁巻きは、特に難しいです。通常、竹を6〜7周して縁を巻きますが、いつもうまくいくという自信は全く無く、私は毎回緊張します。




          
直径60cm強の「二斗じょけ」の縁巻き。私が今まで編んだ中では、一番大きい「しょうけ」です。




 「しょうけ」の縁巻きには、「上り」と「下り」があります。下写真の左側は、「上り」の部分。編んでいるヒゴの向きと、縁巻きの竹の寝かせている角度が、同一方向です。(ともに、右斜め上を向いています) 一方、下写真の右側は、「下り」の部分。編んでいるヒゴの向きと、縁巻きの竹の角度は、同一ではなく互いに垂直になるところです。「上り」と「下り」では、竹を巻く時の感じが微妙に違います。「下り」では、竹が素直に斜めに寝てくれますが、「上り」では、自ら竹を少しメリッと言わせる感じで強引に寝かせないと、うまく角度が揃いません。



       



 先日「しょうけ」の縁巻きをしていた時、私がこうすればうまくいくかなと、竹をぐいっと斜めに寝かせる時にしていた自分の指使いの動きが、どこか師匠の仕草に似ているなと感じました。
師匠は言葉で表現するのが苦手な人でしたが、しかし彼がカゴを編むその姿は、三年間そばにいて今も私の中にはっきりと残っています。 それは13歳から職人として生きてきた彼が、自然と身につけたカゴを編むための体(指)の動きです。

 そして、その「しょうけ」の縁巻きをしていた時のことです。私は急に、自分の手の動きを通して彼自身の存在を強く意識しました。そして、教わった寸法をメモすることよりも、彼から習った深い直接的なものを感じました。




直径8寸」、24cmくらいの「しょうけ」



 師匠はまだまだリハビリ中、こちらが喋ることは伝わっているものの、彼自身が言葉をなかなか発せられないのが辛いところです。しかしこの私の手が、彼が13歳から弟子入りして培ってきた技を少しでも自分なりに受け継いでいるということ、それを先日ふとしたことで実感して嬉しくなりました。