粟通し(麦ふるい)



  
 「粟通し」とは、粟(あわ)をふるいにかけて選別するカゴのこと。 「米通し」よりも、更に目の細かいものです。 今回は、小麦を選り分ける目的で使いたいという地元のばあちゃんからの依頼で、この「粟通し」を編んでみました。 縁(ふち)は、竹で巻いて仕上げています。






 今から数ヶ月程前、そのおばあちゃんから、「粟通しくらいの目の大きさのが欲しかったいね。また今度詳しく話すばい。」と、ある地元の寄り合いの際に言われました。 その時はまだ正式な注文ではないだろうと、少しのんびり構えていたら、先日、「粟通しはまだできとらんのかい?流し(梅雨)が明けたら使うばってんね。」と言われてしまい、そのあと慌てて「粟通し」を仕上げた次第です。 (地元のばあちゃんからの注文は、こうしていつも油断がなりません。。)



           




 上写真の左側は、ふるいにかける前の小麦です。 5月の田植え前に収穫したもので、コンバインにかけた後も、手の平に載っているような「殻付きの麦」が所々に混ざって残っています。(この殻のことを、地元の言葉で「つ」と呼んでいます) そして、この「つ」を被った麦を取り除くため、この「粟通し」の上で麦全体を手で揺すって回転させ、右側の写真のように、「つ」付きの麦を中心部に集めていくのです。


 この「つ」を被った小麦を取り除くようにカゴを揺するのは、とても難しいです。 一方の手はあまり動かさず、他方の手でカゴを揺すって、小麦の流れを作ります。 摩擦力の違い(だと思います)を利用して、「つ」が無いつるつるした小麦は遠心力で外側に、一方「つ」があるものは中心に来るようにと、カゴを上手に回転させます。 昔の人は、「これができないと一人前の百姓じゃなか」と言われたそうで、穀物を選別する「箕」と同様、昔の人の知恵と技術です。







 中央に寄った「つ」を被った麦は、丁寧に手で取り除かれます。 一方、「粟通し」の目の穴からは、身が詰まっていない小さな麦やクズが下に落ち、結局カゴの上には、きれいな麦だけが残るという仕組みです。(その後よく乾燥させたあとで、粉に挽きます。)






 「粟通し」のような目が細かいものは、途中で節が来ないように、節間が長い「蓬莱竹」という細い竹を使用します。(節間が19寸〜20寸近くあるものを特別に探して、一節で編みます)。 二重にして丈夫にするため、下写真の左側のように、真竹で六つ目に編んだものを底に編み、その上からはめ込みます。 ヒゴは磨かず、編みたて直後はとても青々としています。 このような「通し物」は、目の大きさを気にしながら一本一本ヒゴを手で編み込んでいくもので、泣きたくなるほどに手間がかかります。 「粟通し」は、たかが道具、しかし私にとっては、されど道具です。






 今回、「粟通し」を作る際、近所の別なおばあちゃんから見本を借りてきて参考にしました。 下写真は、その見本にした「粟通し」です。 昔の職人さんが編まれたもので、裏には「昭和27年11月」に購入したと刻まれています。 この地域には、かつて、「クロキじぃさん」と呼ばれるカゴ屋さんがおられました。 特に「通し物」が上手な方で、この見本の「粟通し」は、その「クロキじぃさん」が編んだものと思われます。 彼ご自身はもう亡くなられていますが、「クロキじぃさん」のカゴは、こうして平成の時代でも、ばあちゃんのもとで「道具」としての役目を果たし続けています。






  「クロキじぃさん」は、私の師匠の、更にもう一、二世代前の職人さんでした。 私は彼のことは直接に存じ上げませんが、自分がこの集落に移住してから、彼が編まれたというザルだけは、この辺りでよく見かけました。 その丁寧な仕事ぶりは、私はいつも尊敬しています。 自分もいつか、「これは昔な、そこのじぃさんが作ったしょけばい」などと、数世代先になって使う人から言われてみたいものです。