茶ベロのフタ

  


 今から丁度一年前、鹿児島のおばあちゃんからの注文で、「茶ベロ」を編みました。 直径1m弱と、こんなにも大きい昔の生活の道具を編むのは、カゴ人生で最初で最後だろうと思っていましたが、今回、同じおばあちゃんから、今年の茶摘みにもう一つ「茶ベロ」が欲しいと、再び注文を頂きました。


 しかし今度は、フタだけを編みました。 と言うのは、下の台は、戦後間もない頃に昔の職人さんが編まれたものが今でもしっかりとしていて、多少の修繕で、まだ充分に活躍できるからです。(フタの方は、さすがに傷みがひどくて、修理不能の状態でした) 下の写真は、先日私が編み上げた「茶ベロ」のフタです。 下の台は、長年炭火で使い込まれたお陰で、貫禄充分に黒光りしています。 そんな昔の職人さんが編まれたカゴを少し手直して、その上に、私のフタを載せさせてもらいました。





 
 前回は、先にフタを編んでから下の台を編みましたが、今回はその逆に、台の直径に合わせてフタを編みました。 最初は、頂点を4本の骨ヒゴで編み始め、すぐに4本を足します。 その後、8本の骨ヒゴを下から追加して、最終的には更に16本をその下に加えます(計32本)。 骨ヒゴの長さは約1.5mと大きいので、丸太を積み上げてその上で編みましたが、中腰の姿勢が続いてかなり辛かったです。 編むヒゴの巾を1ミリ程度にしたので、直径が大きくなるほどに編んでも編んでも先に進まず・・・それでも最後は意地(?)になって、一番下の折り返すところまで、ずっと細いヒゴで編み続けました。



    


 

 その後、下の台の直径に丁度はまり込むように、骨ヒゴを逆側に折り曲げます。(ここがとても苦労します)  少しずつ編んでは、これくらいかな、いや少し広げ過ぎたかな、もうちょっと曲げていいかな・・・といった感じで、フタのはまり込み具合を調整します。



     




 仕上げは、竹の輪を縁にはめて、葛(ツヅラ)で括ります。 大きいので、ツヅラは私が手を広げた長さの6広分くらいが必要です。 このようにツヅラで括る仕上げは、その昔、鹿児島の竹細工によく見られた伝統的なものでした。 フタの裏側には、後から追加した骨ヒゴが並びます。(私の場合は、あらかじめ火であぶって、「くの字」になるようにクセをつけています。)



 




 下写真は、茶摘みの当日、私が「茶ベロ」を納品したときに撮ったものです。 時代が変わっても、こうやって昔の職人さんが編まれたカゴと一緒に使い続けてもらえるというのは、作り手として感慨深いです。(後ろの茶ベロは、私が去年編んだものです) 台の中で炭火を焚き、それぞれの茶ベロのフタに、釜で炒って手揉みした茶葉(約10kg)を載せます。



 




 編みたてのフタに茶葉を載せる瞬間、私は側にいて緊張しました。 炭火が中でパチパチと音を立てるのを、茶ベロが静かに受け止めています。 熱くなったフタの上に手揉みした茶葉を載せると、すぐに白い蒸気が立ち上がりました。 やがて茶葉が乾燥して、カゴも少しずつ変色を始めます。 新茶の香りのする中、蓋の上を掻き分けて覗いてみると、もう竹の青みが所々に落ち始めていたのが驚きでした。