茶ベロ
「茶ベロ」とは、直径1m近く、鹿児島地方によく見られた昔の生活のカゴです。 下の台の中で炭火を焚き、上籠(ウワカゴ)に茶の葉を載せて乾燥させます。 先月、茶ベロを納品した鹿児島のおばあちゃんを訪ねて、今でも実際に使っているところを見せていただきました。(「茶ベロ」の名の由来は、「茶焙籠(ちゃばいろう)」が訛ったもの、あるいは「茶蒸籠(ちゃぜいろう)」の「チャゼロ」から・・とか、色々と諸説あるみたいです。 椎茸を乾燥したり、あるいは、中でヒヨコを飼って猫から守る(!)ためにも使われたりしたそうです。 ちなみに宮崎の山間部では、この籠は「アマ」と呼ばれています。)
つい数週間前は編みたてで青々としていたのに、もう4,5回ほど使われたそうで、炭火で燻されて色がかなり変化していました。 竹の油分が抜けて艶が出て、より頑丈になった感じです。
まずは茶の葉を摘み取った後、釜で炒って手揉みする作業を、二回ほど繰り返します。 昔は手袋も使わなかったそうで・・・火傷などしなかったのだろうかと思います。
その後、「茶ベロ」に葉を載せて、炭火を焚いて乾燥させます。 カゴの山の中を熱がじわっと回り、やがて白い煙が茶の葉から湧き出てきます。 ときどき手で混ぜ返しながら、次第と葉の色が黒く深まっていきます。
最初は二時間ほど乾燥させ、それから一旦ウワカゴを取り外して茶葉を冷却します。 その後、再び炭火を焚きつけて、また乾燥させては冷却し・・・こんな作業を、芯がカラカラになってポキッと折れるくらいまで、最終的に4,5回ほど繰り返します。 通常一日では終わらず、二日にまたがって作業は続きます。(一気に最後まで乾燥させるよりは、徐々に乾燥、冷却・・を繰り返した方が、茶葉の香りが良くなるそうです)
一回の「茶ベロ」に載せる茶葉の量は、約10kg。(最終的には、乾燥して2kg位までに落ちるとか) 結構な重量で、日之影の92歳の竹職人、廣島さんが言われた「(ウワカゴの)骨ヒゴ32本は、少し厚めに取ることが大事じゃの」の意味が、はじめて実感できた気がします。
なお下写真は、おばあちゃんからの依頼で私が取り付けた、フタがかっちりとはまってズレないようにする、竹のストッパーです。
下の写真、右側の古い「茶ベロ」は、戦後間もない頃に昔の職人によって作られたものです。 つい昨年まで、何と現役で活躍していたそうです。 「茶ベロ」は、かつて各地の資料館や文献で見かけた、私にとっては伝説的な昔のカゴでした。 おそらく、一生に一度あるかないかの注文でしょう。 ずっとおばあちゃんの家で使われてきた「茶ベロ」の世代交代。 今回、自分がその役割を果たせたのかなと、少しほっとしています。
正直、この「茶ベロ」を作るのは、本当に苦労しました。 途中、自分の中でどうしても納得できないところがあって、泣く泣くやり直しをしたこともありました。 しかし、作っている時点で自分が色々と苦労した細かなこと(見た目・形の美しさへのこだわりなど)、こうやって炭火を焚かれて堂々と使われている姿を目にしたら、その大らかさの前に、私が捕らわれていた些細なことは一体何だったのかと、どこか拍子抜けした感じになりました。
「茶ベロ」の胴体を抱きかかえると、じわっと手の平に熱く、パチパチと焚かれる炭火の熱を、一手に中で飲み込んでいる感じです。 鼻先には、茶葉の香りがたき上がってきます。 「カゴは道具じゃけん、自分勝手でよいというわけにはいかんの」という、廣島さんの言葉を思い出しました。