茶びつ
「茶びつ」は、私が独立して間もない頃、「茶器類を入れたりするため、深めの盛り籠に、ご飯じょけのようなフタをつけたものを編むことはできないだろうか」と、あるお客さんから相談されて、自分なりに考えて作ったのが始まりです。 下は、注文で先日私が編んだ「茶びつ」の写真。 自分で茶器類を入れてみました。 急須や湯飲みなどをまとめて入れるため、直径は30数cm、ヒゴは全て磨いて編んでいます。
少し前のことですが、あるとき突然に、私宛に一通のメールが届きました。 「拝啓 私はあなたから何かを購入するのが可能であることを願っています。私は遠くに住んでいます・・・」と、少しぎごちのない日本語の文章でした。 どうやら海外からのようで、名前も日本人には全く馴染みの無い感じです。 住所をよく見ると、それは北欧のノルウェーから送られてきたものでした。 今回編んだ「茶びつ」は、私がそのノルウェーの方のために編んだものです。
その後のやり取りの中で、日本語も全く分からない彼は、あるとき偶然にも私のHPを見つけ出し、翻訳ソフトで内容を理解して、そしてメールをくださったことが分かりました。 国内ならともかく、海外からの注文となると、そうそう簡単に後で修繕するというわけにもいかないので、今回私はかなり緊張して編みました。
なお下写真は、フタ編みの途中のところ。 下本体の縁に合わせて、骨ヒゴをR字型に折り込みます。フタのはまり具合はとても緊張するところですが、無事に完成してほっとしています。 ノルウェーは、現在イースター祭を控えて郵便事情が滞りがちとのことで、今月末くらいに彼の元にカゴを発送しようと思っています。
私は彼について、お茶が好きな方ということ以外は何も知りません。 ただ、文化や生活習慣も違う中、遠い距離を越えて、私の手仕事に対する気持ちや考えを理解してくださっていること、そして、彼の日々の暮らしの中で私のカゴを使っていきたいとおっしゃってくださっていること、それが私にとって何より嬉しいことです。
美しいノルウェーの風景写真を送ってくれたり、あるいは簡単なノルウェー語を教えてくれたりと、楽しくメールのやり取りをさせていただきました。 最近、個人的にネットの世界に色々と疑問を感じることがあって、自分なりに少し距離を取ることを意識していました。 私の師匠の時代はネットなど存在せず、ただひたすらに黙々とカゴを編んでこられました。 ネットの功罪は様々ですが、しかし今回は、世界中に繋がる広大なWeb網の中で、遠いノルウェーの地から私のページに辿り着いてこんな不思議なご縁をいただいたこと、これも現代のネット社会のお陰かな・・と、その良さを見直しています。
上写真は、彼が送ってくださった、自宅の前を流れるノルウェーの川の風景だそうです。 今回、これらのカゴを編み上げたあと、私は宮崎県日之影町在住の93歳の竹職人、廣島さんを訪れました。 ずっと緊張が続いていましたが、ようやく仕上がったカゴたちを廣島さんの手に取ってもらえて、私はようやくほっとしました。 貧乏カゴ屋の自分としては金も暇もありませんが、いつか飴色になったカゴたちに会いに、ノルウェーを訪ねることができたらいいのになぁ、なんて思っています。