ご飯じょけ
「ご飯じょけ」とは、夏場ご飯を入れて風通しが良いところにぶら下げておく、柄のついたフタ付きザルのこと。 ご飯を腐りにくくするだけでなく、冷や飯の風味がより増加します。 その昔、炊飯ジャーが普及する前は、どこの家庭にでも見られた生活必需品でした。
下は、先月発売された某雑誌で掲載された写真です。 軒先にぶら下がる「ご飯じょけ」は、私が地元のおばあちゃんから頼まれて、この村にきて初めて編んだものです。 4年近く経って飴色に変わり、今もおばあちゃんと愛犬コロのために毎日活躍しています。(年間通してずっと使ってくれています) その昔、この辺りでは農閑期などに、自分で竹籠を編む器用な方もおられました。 しかし、「ご飯じょけ」のようなフタ付きのカゴだけは、やはり専門の竹細工職人にしか編めなかったそうです。 下本体にかっぷりはまるよう、噛みあうところをR字型に、ヒゴを押したり戻したりして編んでいきます。 よく私の師匠は、フタをはめる時、「しょけにカプっち言わせんば」と、言ってました。
撮影/増田智泰 撮影/増田智泰
下写真は、ある別の地元のおばあちゃんからの依頼で、何十年以上も前に編まれたザルに私がフタをつけたものです。 下のザル自体は、彼女がこの村に嫁いで来られたとき、実家の近所でカゴを編む方からプレゼントされたものだそうです。 しかしその方はフタは作れなかったそうで、結局おばあちゃんは、ずっとフタ無しで使われてきました。 今回何十年も経って、私がこの村に越してきたご縁で、ようやくフタをつけることになりました。 平成の時代に私にフタをはめられるとは、このザルも想像さえしてなかっただろう・・・なんて思います。
下の写真、左は私が編んですぐに撮ったもので、右は、水俣の昔の職人さんが100年近くも前に編んだものです。(フタ上部の突起物など、私が修繕して取り替えています) 持ち主の方の、そのまたおばあちゃんの代から使われていたそうで、真竹の100年もかけた自然な色の移り変わりは、神秘的な感じさえします。
「ご飯じょけ」のような難しいフタ付きのカゴは、職人の一種のプライドを表しているように思います。 私が弟子入りして、ようやく1年くらい経ってから、師匠が「そろそろご飯じょけを教えんばな」と、言ってくれたのを思い出します。 かつて昔の職人は、「ご飯じょけ」を一日に何と二つも編んで、ようやく一人前と言われたそうです。(夜明け前に起きて仕事を始め、そして夜遅くまで頑張って編んで、ということだったそうですが) それにしても、「ご飯じょけ」が暮らしの中で当たり前に活躍した時代があったということ、それだけでも私にとっては驚きです。