鹿児島の箕作り
「箕」とは、穀物などを選別する農具のこと。 各地の習俗と深く結びつき、神聖な呪力を持つものとしても信じられてきました。 また箕作りといえば、かつては山間の漂泊の民、「サンカ」の生業でもありました。
先月、手仕事に興味を持たれて日本各地の「箕」を収集されている岩手県の桶職人の方が、私のところに遊びにきてくれました。 そして一緒に、鹿児島県の薩摩半島に暮らす、ある箕作りの方を訪ねてきました。
薩摩半島には、かつて箕を作る人たち専門の集落があり、その地域の名称から「日置(ひおき)の箕」と呼ばれます。 箕を編む人のみならず行商専門の人たちもたくさんいて、以前は集落内に箕の競り市もあるほどに生産が盛んだったそうです。 しかし現在となっては、箕を編む人はわずか数名。 この集落の箕作りの起源ははっきりしませんが、古老によれば、どこかよそから流れて来た人に箕の編み方を習った、なんて話もあるそうです。
「日置の箕」は、蓬莱竹(ほうらいちく)、山ビワの木、フジかずら、ツヅラ、山桜の皮、を使用して作られます。 箕を編む仕事を見学させてもらいました。 ちなみに彼ご自身も、遠くは山口県、また、五島列島などの各離島にまで行商に行かれたそうです。 そして何と、私が現在暮らすここ水俣の集落にも、その昔自転車で箕を売りに来られたそうです。
夫婦二人で編まれています。女性が編むのは、この集落では珍しかったとか。
蓬莱竹のヒゴに、桜の皮と、フジかずらの内皮を叩いて撚った繊維を挟み込みます。
樫の木で作った、目を詰めて叩き込む三角形の道具は、「ミガタナ」と呼ばれます。
使っているうちに次第と磨り減ってくるのですが、彼は、私と桶屋さんに、
磨り減って小さくなった「ミガタナ」を、それぞれプレゼントしてくれました。
この状態まで編んだものを「ハネミ」といいます。その後、この「ハネミ」を、山ビワの木の枠にはめ込み、周囲をツヅラで括って仕上げます。
蓬莱竹の身を剥ぐときは、「桜の皮」を折ったものを使用します。
「ハネミ」と、箕の完成品。
箕の大きさは、大・中・小と様々にあります。もし、「日置の箕」に興味がある方がいらっしゃれば、私までご連絡くだされば、箕作りの方の連絡先を紹介させていただきます。
最後に、今回一緒に訪問した桶職人の方のHPです。(→南部桶正) パートナーの方がHPを運営されています。 娘さんを連れられて、私のところに三人で一泊してくださいました。 とても素敵なご家族でした。 なお、彼らが移住して暮らす岩手県早池峰山麓のタイマグラの地(アイヌの言葉で「水の豊かな森」という意味だそうです)は、昭和63年に電気が開通したという戦後の開拓地です。 かつてそこに暮らす老夫婦を取材したNHKのアーカイブス番組「マサヨばあちゃんの天地」は、私も興味深く見させていただきました。