職人 廣島一夫




 本年3月14日、廣島一夫さんが亡くなられました。 享年、98歳と2か月でした。 3月に入って昏睡状態が続いていたとのことでずっと心配していましたが、廣島さんの持たれている強靭な生命力が最期まで彼を支えていたのだろうと思います。  訃報に接したとき、時代が一つ動いたような気がしました。


 下写真は、廣島さんが93歳の頃の仕事姿で、かつて私が彼にプレゼントさせて頂いたものです。 撮影したとき、廣島さんはちょうど直径1m近いザルを仕上げられたところでした。 これが90歳を超えた方の手仕事か・・と、私は息を呑むほどに驚嘆したのを覚えています。 葬儀の当日、斎場にはこの写真が飾られており、本当にありがたく思いました。






 葬儀の翌日、私は廣島さんが生まれ育ったという日之影の山頂に近い地を訪れました。 標高700m、僅か5戸のまさに天上の集落でした。 眼下には山々が広がり、心地よい風が吹いていました。 どこか私の知らなかった廣島さんに出会えたようで、嬉しく思いました。


 廣島さんは生前、彼の生涯の目標であったという「丑ドン」の話をよく語ってくださいました。 私たちもまた、廣島さんという偉大な職人がおられたことを、これから次の時代に向けて語り継いでいくのかもしれません。 廣島さん、本当にどうもありがとうございました。 どうぞ安らかにお眠りください。