かるい  




 先日、宮崎県境近くの「蘇陽峡」に、知人と一緒に行く機会がありました。 高千穂渓谷の上流に位置し、九州のグランドキャニオンとも呼ばれる山深い峡谷で、秋の紅葉がとても綺麗なところです。 この辺りは、民俗学者・宮本常一の本の中で、サンカがよく登場した地域として書かれています。(デジカメを持っていなかったので、以下は知人の携帯で撮った写真です。)



           




 途中、下の谷底深くに、昔の萱葺き屋根の作りを残す、一軒の古い民家を見つけました。 私たちは地元の方に道を尋ねて、谷底の集落に降りてみることにしました。 そして、上から見えた家をようやく探し出し、家の前に高く積み上げられた薪に圧倒されながらも、「こんにちは」と突然に訪ねてみました。 すると、そこに暮らすおばあちゃんが出てこられて、突然の訪問にもかかわらず、とても親切に対応してくださいました。 味わいのある、いいお顔をされていたのが印象的でした。







 下写真は、そのばあちゃんが使われている、「かるい」の写真です。 「かるい」とは、高千穂地方に独特な、底が安定しない三角状に編んだ背負いカゴのこと。(水俣で言う、「かれてご」です)  しかしながら、平地では底は安定しないものの、急斜面の地域では、逆にこの方が安定するのです。 山深い地域で暮らす人々の、生活の中から産み出された「知恵」の形です。 私が尊敬する宮崎県日之影町在住の竹細工職人、廣島一夫さんも、よくこの「かるい」を編まれていました。


 ところで、蘇陽峡の谷底に暮らすこのおばあちゃんの「かるい」は、数十年くらい前に近くの方に編んでもらったものだとか。(その方は脳梗塞で倒れて、今はもう仕事をされてないとのこと。) そう言えば、数年ほど前、天秤棒の両端にカゴを一杯ぶら下げて売り歩くカゴ屋のじいちゃんに私が出会ったのも、ここからそう遠くない地域でした。(車でこの辺りの田舎道を走っていたら、偶然に出会いました。 まさかこの平成の時代に・・??と、そのときはタイムスリップしたようで、かなり驚きました。) 私はこんな感じ、血が騒ぐようでわくわくします。 



            



 
 なお下写真は、宮崎県在住の私の友人が編んだ、「かるい」の写真です。 紐自体も、藁を使って自分で編まれています。(紐を編むのが、実はより大変だとか) 彼もまた、地元に在住されている「かるい」専門の職人さんに弟子入りし、今もその地で私と同じように青竹細工をされている方です。





 私が知る限り、この形は日本では九州の高千穂地方のみに見られて、あとは東南アジアの山岳地帯にも、「かるい」と似たような編み方の背負い籠があると聞いています。 ちなみに私自身は、この形の背負いカゴは編んだことがありません。 その地に暮らしていない私が、これを編むことにどこかはばかりを感じているというのも、正直どこかにあるのかもしれません。