こした(うなぎてご)
「こした」とは、「うなぎてご」の口にはめ込む、円錐形の仕掛け部分のこと。 先端部を紙のように薄く削って、ウナギがするっと入ったら、パタンと閉まって外に逃げることができなくなります。 地域によっては、「モドラズ」とか、「カエシ」と呼ばれたりもするそうです。
水俣の一般的な「こした」は、下写真左側のように、骨ヒゴの竹、内側を外に向けて作ります。 ちょうど節の切り込みが下のカゴに引っ掛かり、一番作りやすい形です。 しかし竹は、内側に曲がって反ろうとする性質があるので、私は独立後ある時から、ウナギをより逃げにくくするため(ともすれば、先端部の僅かな隙間からウナギが逃げかねないので)、下写真右側のように、骨ヒゴの皮を外側に向けて作り始めました。 しかし、節の切り込みが内側に向くので下のカゴに引っ掛けることができなくなり(ストンと中に落ちてしまいます)、なので、口の部分を更に「縁巻き」することによって取っ掛かりを作ります。
今回編んだのは、下写真のように、更に手間をかけて、骨ヒゴの一本一本に切れ込みを作り、鳥の羽のように並べていく方式です。 これは、宮崎県日之影町在住の94歳の竹職人、廣島さんの作り方で、私は、こんなにも念を入れて竹の「こした」を作られる職人さんを、他に知りません。
竹の厚みをどれくらいにすべきか、また膨らみの入れ方や先端の絞り方など、なかなか要領を得ずに苦労しました。 廣島さんから色々とアドバイスを頂いたものの、しかし実際に試行錯誤して作ってみると、果たしてこれでウナギが入ってくれるのかどうか、全く自信がありません。 何とか完成させた後、私はすぐに彼の元を訪れました。 自分が作った「こした」を手に取ってもらい、「大丈夫、ウナギは入る。これでえとらん(獲れない)なら、それはお前のせいじゃない」と、強くおっしゃっていただいた時、私はほっと力が抜けて、ようやく安心することができました。
最近はずっと無理をするせいか、腰や肩などがきつくて鍼灸に通う日々です。 特に仕上げの縁巻きをした後は、極度の緊張感のため、体のどこかが必ず痛み始めます。 廣島さんに、「もっと力の抜けた大らかなカゴ作りがしたいです、これではまるで、針灸代を稼ぐためにカゴを編んでいるようなものですよ」と、私が冗談交じりに愚痴をこぼすと、廣島さんは、「そんなもんじゃ、俺も体にこたえて鍼灸によう通った」、と答えてくださいました。 一世紀近くカゴの時代を生きてこられた職人を前に、私はそれだけで癒されています。
上は、捕獲したウナギを入れておく「うなぎ籠」と一緒に撮った写真です。 こちらでは田植えも終わり、ウナギが上ってくるシーズンになりました。 このような漁具は、ごまかしの利かない野生動物が相手なので神経を遣いますが、「そんなことはウナギに聞いてくれ」と、笑って言われる廣島さんの言葉が私は好きです。