讃岐の箕作り
先日、私の友人である岩手の桶職人(桶正さん)が遊びに来てくれて、二人で四国に渡り、香川県で箕作りをされている方を訪ねてきました。 四国地方の箕は九州で見られるゴザ目編みと違って、網代で編んだ「竹箕」がほとんどです。
横幅80cm弱の大箕。縁(ふち)は、真竹で挟んでツヅラで括っています。(昔は、ハゼの木を使うこともあったとか)
今回訪れた箕作りの方は、何とまだ60代で、この世界ではとてもお若く、しかも「箕」一筋50年。 今も現役で、とても精力的に仕事をされています。 穀物を選別する農具としての「箕」の需要が減っている現在、いわゆる恵比寿神社の、「十日えびす」の福箕としての注文も多いそうです。
左写真、奥様も一緒に編まれています。右写真は、二階に積み上げられた仕上げ前の箕。
固めの竹のときはバッテン状の編み目模様に、柔らかめの竹の時は皮ヒゴを適度に散らした一松模様にするとか。
今回、彼の仕事場を訪問中、私はずっと自分の心がわくわくしているのを感じていました。 昔ながらの職人気質、実直な仕事姿や話し振り・・そして、どこか心地のよい健康的な荒っぽさ。 自分が竹細工を始めた頃の、弟子入り時代のような新鮮な感覚です。 かつて私の師匠が「一斗じょけ」の縁巻きを終えて、何の未練も無くポーンと仕事場の片隅に放り投げていた、そんな光景を思い出します。
なお、四国地方の「箕」は地域によって型があるそうで(愛媛の伊予箕、徳島の阿波箕、高知の土佐箕など)、他近県の作り手がほぼ途絶えてしまった現在、彼は問屋さんからの依頼で、近隣の色々な型の箕も編まれます。
左は、縁のナイロンをツヅラで巻き直してもらっているところ。右は、昔の伊予箕で、讃岐箕よりも縦長。
どこか、昭和の頃にタイムスリップしたような感覚でした。 凛とした仕事場に響き渡る、竹ヒゴをパッパッとさばいて編み進める音。 平成の時代、こんなにも迫力と勢いを持って今も箕を編み続けている職人さんがおられたことに、正直、私は圧倒されています。 こんな職人さんが自分の憧れであり、原点でもありました。 桶正さんと別れてからの帰り道、私は彼の編まれた大箕を脇に抱えながら、幸せな気分で力をもらって水俣に戻ってきました。
今回、ご本人の許可を得て、私のHPで少しだけ紹介させていただきました。 貴重な機会を与えてくださった桶正さん、どうもありがとうございました。 そして何より、まだ現役で頑張っておられる、讃岐の最後の箕作りになるであろう彼ご自身に対して、私は心からの尊敬と、今回お会いできたことへの感謝の気持ちを伝えます。