師匠の仕事場




 二ヶ月ほど前、私がこのHPを始めてまもなくの頃、師匠が脳梗塞で倒れました。 右脳の血管が詰まり、左半身が強い麻痺を受けました。 もとより心臓が強くなかったため、命に関わるのではと大変心配したのですが、お蔭様でその後は医者も驚くほどの回復力で、現在はだいぶ良くなってきています。 しかしながら、左手の指先がまだ全く動かず、今も病院でリハビリ中の身です。 年内に退院できればと願ってきましたが、結局それは難しくなりました。


 師匠は、十三歳でこの道に入りました。 その後、ずっと竹細工一筋で生きてきました。 そんな籠職人の「手」の動きが突然に奪われてしまったこと、全く指が動かなくなってしまったこと、そんな師匠の今の悲しみ、苦しみはどれほどかと私は思います。



四年前に撮影。写真右上の土間で、私も一緒に籠を編んでました。




 師匠がいない今の仕事場は、青々とした籠もなくなり、ほとんどが茶色に変わり始めました。 弟子入りしていた三年間、私は一段下がった土間のようなところに畳を敷いて座り、籠を編んでいました。 見上げると、その左上にはいつも師匠が座っていて、私の籠作りを見守ってくれていました。 私は、一日中同じ姿勢で座り続けていると腰が痛くなったりしましたが、師匠は座り慣れているせいか、「おっど(俺)は何時間ずっと座ったままでも、全然苦にはならん」と、よく言っていました。 師匠が仕事場で座って仕事する姿は、達磨さんのように形がどっしりと定まり、とても貫禄がありました。


 今、師匠のいない仕事場は、どことなく籠が寂しそうです。 半世紀近く、その人生の大半をこの仕事場で過ごしてきた師匠は、やはりここに座って籠を編む姿が似合います。 左手の麻痺は強く、リハビリはまだ時間がかかりそうです。 しかしながら、またその指が動き始め、そして師匠がここで籠を編む日が再び来ることを、強く願います。