竹の虫
今年も竹を切る季節になりました。 今月は、第二週目に新月があります。 まずはその辺りで、20本ほどを切りました。 私が思うベストシーズンは10月・11月ですが、「木六竹八塀十郎(きろく・たけはち・へいじゅうろう)」の諺に従えば、今月の8日から既に旧暦の八月に入っており、もう竹を切り始めて良いのかなと思います。 伐採した場所は、弟子入り時代に師匠とよく行った水俣の竹林。 独立後初めて再び山に入りましたが、何年も切っていなかったせいか、枯れた竹もだいぶ混ざっていました。
伐採後、竹は根元と先端から枯れ始めますが、今年は不思議なことに、昨年11月の新月前に切った竹のうち、かなりの長い間ずっと枯れずに続いたものがありました。 両端がほんの少し茶色くなっただけで、全体的にまだ青々としているものが、今月になってもまだ何本か残っています。
下写真は、そのうちの一本の竹。 家の裏に寝かせていますが、伐採後10ヶ月以上経過しているのに、根元も先端もほとんど枯れていません。 四つ割にして川に一晩浸ければ、まだ青竹として充分に細工が可能です。 今年の夏の猛暑にもかかわらず、こんなにも長く枯れずにいたのは初めてのことで、自分でも驚いています。
数年前、今年84歳になられる水俣の最長老の職人さんから、12月に切った竹で編んだカゴに虫が来たよ、との連絡を受けたことがありました。 伐採した日付を尋ねたら、後半の20日過ぎとのこと。 私はそれを聞いて、現在の竹切りは、原則12月の上旬頃を最後としています。 彼曰く、輸入品の竹製品の中に外来種の竹虫が潜り込み、近年は色々と状況も多様化しているのでは、ともおっしゃっていました。
竹を切って良い時期は、地域性のみならず、その山自体によっても(そして竹一本一本でも)違いはあるのでしょう。 また、近年の温暖化も、水揚げの時期に影響を与えているのかもしれません。 しかしながら、どんなに時期を気にしても、虫が来るときは来てしまいます。 編んで数年は何ともなかったのに、いきなりその年になって虫に食われた、というケースもあります。 実際の虫の生態はよく分からない、というのが正直なところです。
ちなみに体長数ミリの黒い蟻みたいな竹虫は、自分の体が隠れる位に厚みがある、竹の内側の柔らかい身の部分を食べます。 従って、固くて薄い皮ヒゴにした部分はほとんど影響を受けず、実際に虫が来る箇所は、柄や足、縁の中の輪など、身の厚い部分に限られます。 なので、8〜9月や12月の微妙な時期の竹は、私は念のため、薄くて固い皮ヒゴにしか使用しません。
先日、お客さんから、竹の身の部分に虫が来たよ、との知らせがありました。 送ってもらった下写真は、団子じょけのフタの内側の縁巻き部分。 一ミリほどの小さな穴が二つ開いています。 中に入っている身の内輪を狙って来たのかも知れません。 伐採時期は問題が無かったので、正直かなりショックでしたが、仕方ありません。 お手上げです。 しかし、他のカゴも色々と観察していますが、切り時にさほど間違いがなければ、仮に虫が来たとしても、それは一過性に終わる場合が多いです。 被害がそこで最小限にとどまり、翌年度以降はまた虫が来なくなったりするのです。(時期が悪い竹は、毎年、何度も何度も虫に食い続けられます) その方は私の友人なので、とりあえずその部位を熱湯につけて虫を殺してもらい、しばらく様子を見てまた状況を教えて下さいとお願いしましたが、現在、その後特に被害は進んでいないとのこと。
虫も竹も同じ生き物、共に自然の中で生きています。 全体的な生命の営みの中、カゴ屋はちょこっとその間に生活の道具にさせてもらうのみで、全てをコントロールしようとするのはおこがましいのかな、と思うこともあります。 プラスチック製品と違って自然の素材を扱うカゴ屋は、最善の状況を求めながら、その時その時ただ作り続ければよいだけであって。 そして、使われる竹カゴも、食べに来る虫も、結局いつかは共に、土に還っていく存在です。
以前、廣島さんに、お客さんからカゴに虫が来たと言われたらどうしましょう、と相談をしたことがあります。 そうしたら、「俺が食うっちゃねえとよ、虫が食うとよ、そんなことは虫に聞いてくれ。」 「カゴ屋は口も達者にならなきゃいかんの(笑)」と、言われてしまいました。 あと私の師匠も、「カゴを毎日よう使って動かしとったら、虫が来る暇なんか無かよ。 今の人は、カゴを使わなくなったもんなぁ、もっと生活で使わんばいかん。」と、笑ってました。 カゴ屋で生きてこられた職人の言葉は、スカッと抜けていて気持ちが良いです。